- 「同一労働同一賃金ってなに?」
- 「企業は何をしたらいいの?」
- 「導入のメリットは?」
- 「導入にあたって注意すべきことはある?」
といった様々な疑問があります。この記事では、同一労働同一賃金についての基礎知識や派遣先のメリット・デメリット、注意すべきこと、対応方法、派遣会社の取り組み、Q&Aをいくつかの事例を踏まえながらご紹介します。
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記事の目次
1. 同一労働同一賃金とは
1-1. 基礎知識
同一労働同一賃金とは正社員と非正規労働者との間の不合理な待遇差をなくすための制度です。
「雇用形態に関わらず正社員と非正規労働者の職務が一緒であれば、同一の賃金が支払われるべき」という考え方を元に施行されました。
ただ非正規労働者の賃金を正社員と同一にするのではなく、「職務内容・責任の重さ」「人事異動・転勤有無等の配置の変更範囲」といった部分も総合的にみて不合理な待遇差をなくします。
対象となる労働者は「有期雇用労働者、契約社員」「パートタイム労働者」「派遣社員」の方達です。
1-2. 働き方改革の施策の一つ
「働き方改革」とは個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。
「働き過ぎを防ぐ長時間労働の是正」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」の2つの大きな課題の改善を目的としており、そのうちの後者の課題を改善する取り組みが同一労働同一賃金です。
1-3. いつから施行されるのか
同一労働同一賃金は対象者によって施行時期が変わります。
- 大企業の有期雇用労働者、契約社員、パートタイム労働者と派遣社員
→2020年4月1日~施行
- 中小企業の有期雇用労働者、契約社員、パートタイム労働者
→2021年4月1日~施行
「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが以下の基準を満たしていれば、中小企業に該当すると判断されます。また、事業単位ではなく会社単位で判断されます。
業種 | 資本金または出資の総額 | 常時使用する労働者 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
2. 同一労働同一賃金の2つの方式
派遣スタッフの場合「派遣先均等・均衡方式」、「労使協定方式」のいずれか2つの方式により、派遣スタッフの待遇を決めます。
派遣会社は「派遣先均等・均衡方式」、「労使協定方式」のいずれか2つの方式をとっており、それによって派遣先企業がとるべき対応が変わります。
ここでは2つの方式の違いを説明します。
2-1. 派遣先均等・均衡方式とは
派遣先均等・均衡方式とは、派遣先企業の労働者に合わせた待遇を基準とする方法です。
そのため派遣先企業は派遣会社に自社で働いている労働者の待遇に関する情報の提出が必要になります。提供をした情報を元に待遇を決めます。
待遇を決める際のポイントは以下2点です。
均等待遇
均等待遇とは正社員と非正規社員が同じ仕事内容であれば待遇を同じにすることです。
業務内容だけでなく、以下も踏まえて待遇を決定します。
- 職務内容(業務内容+責任の重さ)
※責任の重さにはトラブル対応、決裁権、部下の数、ノルマ達成の期待度等が含まれます。
- 配置の変更範囲(人事異動、転勤の有無等)
均衡待遇
均衡待遇とは正社員と非正規社員が違う仕事内容であれば待遇差をつけることです。
以下については職務の内容が違くても派遣先で就業する労働者と同様に待遇を揃えます。
- 福利厚生施設利用(社員食堂、更衣室、休憩室)
- 教育訓練(研修)
- 転勤者用社宅
- 各種手当
- 賞与
- 退職金
派遣先企業は派遣会社へ提供する情報量が膨大かつ、提供をしないと契約を結べないというデメリットもあります。
- 派遣先企業A社で働く正社員Yさんは部長の役職があり部署の全体を統括する責任があります。A社で働く派遣スタッフXさんには同様の役職と責任がありません。その場合は同一の労働ではないため、YさんとXさんの賃金差があっても問題ありません。
- 派遣先企業B社で働く正社員Wさんに交通費が支給されている場合、B社で働く派遣スタッフVさんにも同様に交通費を支給する必要があります。
- 派遣先企業C社で働く正社員Gさんは転勤の可能性があります。C社で働く派遣スタッフHさんは転勤が不可です。その場合は賃金差があっても問題ありません。
2-2. 労使協定方式とは
労使協定方式とは派遣会社と派遣スタッフで労使協定を結び、同じ地域・同じ職種の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金を算出して賃金を決める方式です。
派遣先均等・均衡方式は派遣先企業の基準の賃金設定に対し、労使協定方式は派遣会社基準の賃金設定になります。
賃金の決まり方は、派遣スタッフの「職種」「エリア」「能力」「経験」によって決まります。
ほとんどの派遣会社は労使協定方式を採用しています。
派遣先企業は派遣会社に対して、
- 教育訓練と福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室)の情報提供(法第40条第2,3,4,5,6項)
- 派遣料金の交渉における配慮
上記の2つの対応が必要になります。
- 派遣スタッフの賃金は一般労働者の平均的な賃金(賞与含む)との比較で時給を定め厚労省からの統計データをもとに派遣基準賃金を算出して計算します。
3. 同一労働同一賃金導入によるメリット・デメリット
3-1. 派遣先企業のメリット
・生産性の向上
派遣スタッフが正社員と同じ研修を受けることで、スキルアップにつながり生産性の向上が期待できます。
また、納得感のある賃金を支給することによって、派遣スタッフの仕事に対するモチベーション向上も期待ができます。
・優秀な社員の獲得が望める
労働に見合った賃金を支給することで、優秀な社員を集めやすくなります。
ハイレベルなスキルを持つ人材や、スキルはあるが結婚や子育てにより就業ができなくなっていた主婦層などを採用につなげることができます。
3-2. 派遣先企業のデメリット
・人件費が高騰する
同一労働同一賃金の導入により従業員一人一人に正当な賃金を支払うため、非正規雇用労働者の賃金があがって人件費が高騰します。
・派遣会社に対して説明や準備に工数がかかる
社員待遇の見直しをするため準備の時間がかかります。また、同一労働同一賃金では、「正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、賃金面での格差が生じてはいけない」という考えに基づく改革のため、派遣スタッフに対して「なぜこの賃金なのか」と説明の義務が生じ、工数がかかります。不合理な説明をしてしまうと裁判に発展するリスクも。
労使協定方式を採用している場合は派遣会社が派遣スタッフに説明をしてくれるため、その工数を削減できます。
4. 派遣先企業の同一労働同一賃金導入の対応手順
派遣スタッフを受け入れることが決まったら、派遣会社に派遣先均等・均衡方式か労使協定方式のどちらの方式を選択するか確認をしましょう。
4-1. 派遣先均等・均衡方式の場合
派遣先均等・均衡方式を選択した場合の対応は以下です。
・派遣会社に待遇に関する情報の提供
派遣先企業は、派遣スタッフと比較する対象の労働者を社内から選定し、派遣会社に対して待遇に関する情報を提供します
以下、比較対象労働者の選定基準です。(優先順位の高い順に選定します。)
- 「職務内容」と「職務内容及び配置の変更範囲」が同じ通常の労働者
- 「職務内容」が同じ通常の労働者
- 「業務内容」または「責任の程度」が同じ通常の労働者
- 「職務内容及び配置の変更範囲」が同じ通常の労働者
- ①~④に相当するパート・有期雇用労働者
- 派遣スタッフと同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定 した場合における当該労働者
以下、派遣会社に提供する情報です。
- 比較労働者の職務内容(業務内容+責任の程度)
- 比較労働者の配置の変更範囲(人事異動、転勤の有無等)
- 比較対象労働者を選定した理由
- 比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場
合には、その旨を含む。) - 比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
- 比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項
・教育訓練の実施(研修)
派遣先企業が自社で雇用する労働者に対して研修・教育訓練を実施する場合は派遣スタッフに対しても同様に実施します。
・福利厚生施設(社員食堂、休憩室、更衣室)の利用許可
派遣先企業が自社で雇用する労働者に対して社員食堂、休憩室、更衣室を提供する場合、派遣スタッフに対しても同様に提供します。
・派遣元管理台帳に記載事項の追加
派遣先管理台帳へ以下2点の項目を追加します。
- 協定対象派遣労働者であるか否かの別
- 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
4-2. 労使協定方式の場合
派遣先均等・均衡方式と同様に労使協定方式でも、以下の対応をします。
- 教育訓練の実施(研修)
- 福利厚生施設(社員食堂、休憩室、更衣室)の利用許可
- 派遣元管理台帳に記載事項の追加
また、派遣会社と派遣スタッフで待遇を決定するため、以下の対応が必要です。
・派遣料金の交渉における配慮
派遣スタッフの「職種」「エリア」「能力」「経験」によって賃金が決まるため派遣料金の交渉における配慮が必要です。
例えば、東京で経理事務職経験20年ある派遣スタッフを経理として受け入れる際、経理としての高い能力があることが見込まれるため、派遣会社からは能力・経験を加味した派遣料金の交渉があります。派遣先企業はそういった派遣料金の交渉においての配慮が必要です。
5.その他の雇用形態における同一労働同一賃金
5-1.同一労働同一賃金の対応が必要な雇用形態
自社で直接雇用をしているパート社員、契約社員も派遣スタッフ同様に同一労働同一賃金の対象に該当します。
5-2. 対応手順
- 雇用形態の確認
- 待遇の確認
- 待遇差がある場合の説明
- 不合理な待遇差の解消
1.雇用形態の確認
自社で雇用している従業員全員の雇用形態を確認します。非正規社員は契約内容も確認します。
2.待遇の確認
正社員に支給されている賃金項目のうち非正規社員には支給されていない項目や、計算方法、支給額が異なる項目がないかを確認します。
また、教育訓練の実施や福利厚生施設の利用についても正社員と非正規社員で差がないか確認します。
3.待遇差がある場合の説明
待遇差がある場合に合理性のある説明をします。
4.不合理な待遇差の解消
不合理な待遇差があった場合は解消します。
- 正社員と非正規社員の職務内容の差を明確にして、それぞれをはっきりと区別します。区別することで待遇差が不合理ではないと説明ができるようになります。
- 賃金や手当の確認をします。例えば正社員のみに支給している、退職金や賞与を非正規社員にも支給するといったことです。
6. 派遣先企業が注意すべきこと
派遣先企業は以下のことに注意が必要です。
- 派遣会社から情報の提供を依頼された場合は応じる義務があります。
同一労働同一賃金では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者で不合理な待遇差があってはいけないため、派遣先均等・均衡方式を採用している場合は4-1で記述をしている、
「比較対象者の職務内容」
「比較対象者の配置の変更範囲」
「比較対象者の選定理由」
「比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容」
「比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的」
「比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項」
「教育訓練の実施」
「福利厚生施設(社員食堂、休憩室、更衣室)の利用許可」
以上の情報提供が必要です。情報提供を断った場合は派遣スタッフの受け入れができません。 - 派遣料金については配慮の義務があります。
- 従業員への説明義務
正社員と非正規社員との賃金差に合理的な説明をすることは難しいといわれています。
学歴や、職歴、経験年数、マネジメント能力によって差がある場合や、責任の範囲(部下の有無)転勤の有無などから賃金差を決定するため複雑な判断が必要です。専門家に依頼することも視野に入れましょう。
(厚生労働省告示第430号)
4-2で記述をしている、派遣スタッフの「職種」「エリア」「能力」「経験」によって賃金が決まるため派遣料金の交渉における配慮が必要です。
7. 派遣会社で取り組んでいる実例
大手派遣会社の同一労働同一賃金の対応実例をご説明します。
7-1. パーソルテンプスタッフ
会社名 | パーソルテンプスタッフ株式会社 |
本社所在地 | 東京都渋谷区代々木2-2-1 新宿マインズタワー |
設立年月日 | 1973年5月 |
資本金 | 22億7,300万円 |
同一労働同一賃金の対応
- 方式:労使協定方式
- 通勤交通費:全額支給
- 有給休暇:半日単位で取得が可能
- 慶弔休暇の導入・慶弔見舞金の支給:勤続3年以上の方を対象
特徴
パーソルテンプスタッフはスタッフ登録者数がグループ全体で700万人おり、500種以上の職種に対応できる業種カバー率100%の老舗の大手人材派遣会社です。
1章で紹介したサービスの他に紹介予定派遣も行っており、直接雇用を検討している方に雇用に関するミスマッチをなくすため、実務を通して能力や適性を判断できるため効率的で精度の高い採用活動が可能になります。
- 紹介予定派遣で人材を直接雇用したい
- 他社では扱っていない業種での派遣を依頼したい
- 雇用でのミスマッチをなくしたい
7-2. スタッフサービス
会社名 | 株式会社スタッフサービス |
本社所在地 | 東京都千代田区神田練塀町85 JEBL秋葉原スクエア |
設立年月日 | 1981年11月 |
資本金 | 3億円 |
同一労働同一賃金の対応
- 方式:労使協定方式
- 通勤交通費:全額支給
- 社会保険:2ヶ月以内の短期派遣スタッフの社会保険加入が可能
特徴
スタッフサービスは登録者数120万人を誇る業界トップクラスの人材派遣会社です。
多くの優秀な派遣スタッフを抱えているため、一般事務や営業事務、秘書などのオフィスワークからIT・システム、製造・軽作業、設計・開発、介護・医療まで多様な職種に対応できます。また、週3~4日勤務や時短勤務など要望にマッチした派遣スタッフを提案してもらうことも。
「急に人手が足りない!」といったスピードを重視の派遣依頼にも対応可能で、最短5営業日で就業可能なスピード対応が特徴です。
さらに、紹介予定派遣サービスも行っているため、直接雇用検討中でも採用コストを大幅に抑えることができ、業務を通じて職場とマッチしているかを検討することができるため、雇用に際してミスマッチをなくすことができます。
- 登録者数の多い人材派遣会社に依頼したい
- スピーディに派遣スタッフを依頼したい
- 雇用のミスマッチをなくしたい
7-3. パソナ
会社名 | 株式会社パソナ |
本社所在地 | 東京都千代田区大手町2-6-2 |
設立年月日 | 1976年 |
資本金 | 1億円 |
同一労働同一賃金の対応
- 方式:労使協定方式
- 通勤交通費:全額支給
- 有給休暇:半日単位で取得が可能
- 特別有給休暇制度:年次有給休暇が無効になってから1年以内に再就労された場合に、年次有給休暇の残日数相当分(上限10日)が再就労の契約開始日に付与
- 特別休暇:結婚休暇/忌引休暇/事故休暇/裁判員特別休暇
- 割引サービス:「ベネフィット・ステーション ゴールドプラン(パソナオリジナル版)」で、レジャーやグルメなど様々な割引をうけることができます。
特徴
パソナは設立20年以上の人材派遣会社で、徹底した企業目線の人材サービスが特徴的な会社です。
マンパワー、テンプスタッフに続き社会的ニーズに応えるようにして1976年に設立しました。
パソナに導入されているマイコーチ制度とは、派遣スタッフの能力や才能を時間をかけて理解し、最大限に引き出すことで企業の元で即戦力として働けるスタッフを育成する制度のことです。
この制度によって即戦力となるスタッフを大勢抱えることが可能となり、幅広い要望にマッチしたスタッフを派遣することができるため、派遣後のミスマッチを少なくできます。
- 採用コストや社内研修などの手間を省きたい
- オフィスワークや営業での派遣依頼をしたい
- 派遣スタッフとのミスマッチを防ぎたい
8. 同一労働同一賃金に関するQ&A
Q1. 同一労働同一賃金を違反した場合、罰則はありますか。
同一労働同一賃金に違反した場合の罰則は、明確に定められたものは存在しないです。
しかし、不合理な待遇を受けた労働者から損害賠償請求をされる可能性があるため注意が必要です。
Q2. 導入することで助成金申請はできますか。
キャリアアップ助成金「正社員化コース」の助成金申請ができます。
「有期雇用労働者、契約社員」「パートタイム労働者」「派遣社員」の非正規労働者を正社員に転換した場合に助成金申請できる制度です。
一人当たり最大72万円まで申請ができます。
Q3. 派遣スタッフの昇給はどうしたらよいですか。
正社員が年功賃金制度で毎年昇給している場合は、派遣スタッフも同様に昇給をする必要があります。
厚生労働省の目安では、就業後1年が経過すると賃金が約16%、2年後には約27%、3年後には約32%上昇する目安になっています。
Q4. 人件費が圧迫するので正社員の待遇を下げてもよいのですか。
政府が発表している同一労働同一賃金の具体的なルールを示すガイドラインには、正社員の待遇を引き下げることは望ましくないと明記されています。
しかし、人件費の圧迫により引き下げざるを得ない企業もあり、正社員の役職手当、住宅手当、地域手当等の手当や賞与を削減する企業もあります。
Q5. 派遣スタッフと正社員の仕事内容も同一にしないといけないですか。
同一労働同一賃金は雇用形態の不合理な賃金格差をなくす取り組みです。そのため、仕事内容を「同一」にする必要はないです。
9. まとめ
同一労働同一賃金について、基礎知識や派遣先のメリット・デメリット、注意すべきこと、対応方法、派遣会社の取り組み、Q&Aをいくつかの事例を踏まえながらご紹介しました。
派遣スタッフを受け入れる場合には2つの方式があり、それを理解したうえで派遣スタッフを受け入れる必要があります。
同一労働同一賃金を導入できていると企業のイメージアップにも繋がります。
これらのポイントをしっかり押さえて、導入に向けて取り組みましょう。
>>派遣を依頼する前に|知っておきたい注意点11項目